新井白石は儒学者の出身であり、貧しい暮らしを続けながら勉強を重ねた後に、堀田正俊に見出されて出世の糸口をつかみましたが、正俊が暗殺されたことで再び浪人暮らしに戻ってしまいました。その後、縁あって綱吉の養子になる前の徳川綱豊に仕えることとなり、綱豊が家宣として将軍になった際にはブレーンとして活躍の場が与えられました。
白石は、家宣の治世をよく見せるための手段として、晩年に評判が落ちていた綱吉の治世を当初から評判が悪いように見せかけることを考えつきました。ライバルの評判を落とすことで、自分の評価を相対的に上げるという、儒学者にあるまじき考え方でもありました。
その背景には、荻原重秀に対する個人的な深い憎しみがありました。儒学者の目から見れば、重秀による貨幣の改鋳は、金の価値を落とした偽物を市中に出回らせることで不正な利益を上げているとしかうつっていませんでした。また、貨幣の改鋳後に物価が上がったことは、実は武士にとっては苦痛以外の何物でもありませんでした。なぜなら、彼らの給与は米で支給されるために、常に一定の収入しかなく、物価が上がれば生活が苦しくなるばかりだったからです。
白石は家宣に何度も直談判(じかだんぱん)した末に重秀を幕閣から追放すると、自分の信念にもとづいて金の含有率を元に戻す貨幣を鋳造しましたが、これが大失敗でした。貨幣の価値が上がったことで物価が値下がりして悪質なデフレーションを引き起こしてしまい、景気がさらに悪くなったからです。
結局、白石は第8代将軍の徳川吉宗(とくがわよしむね)が就任したのと同時に追放され、晩年に自伝となる「折たく柴の記」(おりたくしばのき)を著(あらわ)していますが、この書の中で「生類憐みの令は数十万人の罪人を出した」と書いているのです。




いつも有難うございます。
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紗那 あ、あれ・・・?もしかしてー、もしかしなくてもー・・・
綱吉さんが悪く言われてるのって、この人のせいですかっ?!
この人ひどいですねー・・・ 権力握ると、人が変わるって奴なんでしょうか・・・
馬人 ライバルの評判を落とす・・・。
だから悪い説が綱吉さんに流れたんでしょうか^^;
この時代は色々と難しいですw
紗那さんへ
黒田裕樹 紗那さんの怒りのお気持ち、よく分かります。
真っ先に綱吉の功績を否定した人物としては、間違いなく新井白石が元凶でしょうね。
頭は良いけど視野が狭い。他人の功績を認めないどころか、自分の意に反すると徹底的に排除しようとする。こういう人物が政治の実権を握ると、どういうことになるのか…。
馬人さんへ
黒田裕樹 > ライバルの評判を落とす・・・。
> だから悪い説が綱吉さんに流れたんでしょうか^^;
そのとおりです。自分に実力がない、もしくは自信のない人間は、前任者のレベルを自己よりも下げることによって、自分のレベルをわざと高く見せようとするのが常ですからね。もちろん、インチキ以外の何物でもありませんが。
> この時代は色々と難しいですw
そうですね。でも、今回のような全体の流れを理解できれば、それほど難しいことはないですよ。今の段階では詳しいことまでは覚えられなくても大丈夫です。いずれ本格的に学習する際に役立てばOKですからね(^_^)v
絵に描いた餅?
オバrev 新井白石らの改革は、確か「正徳の治」という名前がついてたと思いますけど、名前だけからすると、正しい徳のある政治をしたという、政治家の鏡のように思ってましたが、その鏡は本物ではなく絵に描いたものだったんですね(^^;)
しかし金の含有量を上げるということは、金に裏付けされた貨幣、つまり金本位制完全実施とも考えられるけど、確かに貨幣の価値が上がり、物価が下がりますね。
デフレになったことは知りませんでした。
今の世界の流れも、ドルの価値が低下し、中国などはさかんに金を購入してます。同じようになるかもしれませんね。
MAHHYA うわあ、新井白石、ずいぶん「小さい人物」だったんですね~。
儒学者とは思えない行動です(>_<)
えめる 優れた才能も、使い道を間違ってしまうと悲惨ニャ。
家宣さんも、「そんなにいうならやらせてみるか」なんて
甘いこと思っちゃったのか?
その判断の結果がこれってことにゃね。
んっ?まさに現在に通ずる…いやいや、まだまだこれからっ。きっと。たぶん。
頭のいい人は奢っているからニャー。
心の勉強なんかしないからニャー。
人の心を痛めつけることなんて、平気な癖して、
自分のプライドだけはやたら高いからニャー。
と、頭の悪いオネコはひがむの~。たはー。
おばかバンザーイ! あ、ちがう?(笑)
オバrevさんへ
黒田裕樹 > 新井白石らの改革は、確か「正徳の治」という名前がついてたと思いますけど、名前だけからすると、正しい徳のある政治をしたという、政治家の鏡のように思ってましたが、その鏡は本物ではなく絵に描いたものだったんですね(^^;)
お考えのとおりだと私も思います。理想に燃えるのは結構ですが、現実を見ないことには、政治は始まりませんからね。
> しかし金の含有量を上げるということは、金に裏付けされた貨幣、つまり金本位制完全実施とも考えられるけど、確かに貨幣の価値が上がり、物価が下がりますね。
> デフレになったことは知りませんでした。
インフレやデフレは公民で学ぶところですから、歴史教育ではあまり取り上げられないことが多いですね。ただ、貨幣の価値と物価とは相関関係にあることさえ理解していれば、容易にわかる事実でもあります。私は公民の教師が本業ですから、そのあたりはずいぶん助かっているかもしれません(^^ゞ
> 今の世界の流れも、ドルの価値が低下し、中国などはさかんに金を購入してます。同じようになるかもしれませんね。
金本位制は世界恐慌後にブロック経済になってから崩壊し、第二次大戦後にドルを基本とする固定相場制を経て、現在の変動相場制になりましたが、ドルは未だに世界の基軸通貨ですからね。その可能性はあるかもしれません。
MAHHYAさんへ
黒田裕樹 > うわあ、新井白石、ずいぶん「小さい人物」だったんですね~。
> 儒学者とは思えない行動です(>_<)
残念ながら、そのとおりと言わざるを得ませんね。人間の行動が私怨で振り回される。これほど愚かなことはないのですが、自分のやり方が絶対正しいと固く信じている人間ほど、視野が狭くなり、大人気ない手段で他人を陥れようと考えるものでもあります。
えめるさんへ
黒田裕樹 儒学者としては超一流であっても、政治家として一流であるとは限りません。
本当に政治家に向いているのは、それぞれの国益を第一に考え、天才的な頭脳は持っていずとも、優れた決断力や判断力、時には将来を見据えた洞察力をも兼ね備えた、自らが「汚れ役」になることをいとわない人物だと思います。単なる人気取りでは政治はできない。綱吉公の一生とその後を振り返ると、まさにそのとおりだと思いますね。
もちろん、私が述べた原則は、現代にも通じる教訓だと思います。個人のプライドや頭の良さよりも、人の痛みの分かる政治家こそ信頼したいですよね。
新井白石のとった行動は、結果として綱吉の功績を不当に貶(おとし)めることになりました。また、白石が儒学者であったことで、儒学を学問の中心としていた江戸幕府における彼の評判が後世も決して悪くなく、それに伴(ともな)って彼の自伝である「折たく柴の記」が評価を受けることで、「綱吉=暗君」説が定着してしまうことになりました。
また、綱吉と同時代の人物であった徳川光圀が後世に「黄門様」として有名になってしまったことも、綱吉には不運でした。徳川光圀としての実像を度外視して定着した「黄門様=善玉」のイメージと対比させて、綱吉はさらに暗君の印象を植え付けられることになってしまったからです。
人々の意識から「戦国の遺風」を一掃して「人命尊重と思いやりの精神」を定着させるという大転換を実現させただけでなく、能力ある人材の起用や、財政難における危機管理での見事な対応など、数々の功績があった徳川綱吉の治世は、こうして長い年月の間、ずっと不当な評価しか受けてきませんでした。
その後の歴史を作った人間に功績をすべて否定されるだけでなく、ねじ曲げられた評価しか与えられずに、それが真実であると後世の人間にずっと思い込ませられる。これぞまさに「歴史の捏造」(ねつぞう)であり、絶対に許されないことです。
今年(平成21年=2009年)で没後300年を迎えた綱吉公の名誉回復を今こそ実現していくことこそが、歴史の事実を理解して、真実に目覚めようとする現代に生きる私たちがなさなければならないことではないでしょうか。
(第6回歴史講座の記事はこれで終了です。明日(4日)の6時からは講座の補足、さらに18時には今回の講座全体の講評について書きます)




いつも有難うございます。
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ぴーち こんばんは!なるほど、白石によるそんな「捏造」が
あったんですね~。
とんだ汚名を着せられながら、300年。。
綱吉も浮かばれないですね・・
それでも、歴史上に名を残したい!という野望が渦巻く
世界で生きている人間には、例えそれが、悪名だとしても、
後世にまで名を残すことが出来たのは、逆に「白石」が
居てくれたお蔭?だったかも知れませんが、私も考えが歪んでいるでしょうかね~?(笑)
富士山は、確か私が学生の時は「休火山」と教わりましたが、今は「活火山」に訂正された様ですね。。
と言う事は、これからもしかして・・・・^^;
それでは、応援凸
ぴーちさんへ
黒田裕樹 なるほど、「悪名」であっても名を残した方が…というわけですね。
確かに歴史上に名を残した人間はほんの一握りにしか過ぎませんが、新井白石の時代が「正徳の治」と必要以上に美化されていることを考えれば、せめて本当の意味で名前を残してあげたいと思うのもまた人情ではないかと思います。
富士山が活火山ですか。それは厄介かもしれませんね…(´・ω・`)
ケンシロウ こんにちは。
ここで記事とは関係ないコメントをw
随分冷え込みましたね。
インフルエンザも蔓延してるので
気を付けて下さいね。
ケンシロウさんへ
黒田裕樹 健康に関するお言葉、いつも有難うございます。
仰るとおり、急に冷え込んでまいりました。
インフルにもかかりやすくなりますので、ケンシロウさんもご自愛下さいm(_ _)m
正しい史実
オバrev やはり、歴史を正しく知るということは大事ですね。
たとえマスコミや後の政権が批判しても、海外から圧力がかかったとしても、正しい歴史的事実は伝えられるべきだと思います。
後に黒田先生のような人がでてきて、その事実を伝えてくれるかもしれないですからね(^_-)-☆
なみなみ こんばんは。
今回も楽しく読ませていただきました。
綱吉、私が学校で習った頃は
散々な評価でしたが、
きちんと見直されててホッとしてるんじゃ
ないでしょうかw
ただ、やっぱり綱吉側にも隙があったんでしょうね。
桂昌院さんとセットで悪口言われるあたり、
当時の人たちに反感を感じさせるものが
あったように思います。
馬人 悪い評価しかされていないって可哀相ですね…。
「悪い」という観念が人々の中に埋め込まれているから
こういう悪い説が飛び出してくるんでしょうね…。
授業で習った綱吉さんは少し違いましたw
善人のイメージしかありませんでしたよ^^
えーっと、綱吉の「生類憐みの令」でしたっけ。
確かそういうものの話を聞いたとき、
生物を大切にする人なんだな~と感動しましたw
オバrevさんへ
黒田裕樹 正しい歴史的事実を知ることが、我が国のみならず世界の歴史を知ることができて、あらゆる局面で是々非々の判断を下すことができると思います。
ニセの情報をつかまされるということは、その方面においては他よりも遅れをとることになり、ひいては国際競争に負けてしまうことにもなりかねません。
どんな圧力にも負けずに正しい歴史的事実を伝えることは、崇高な理想ではありますが、今回の綱吉講座を通じて、やはり重要なことだと再認識しますね。
なみなみさんへ
黒田裕樹 桂昌院は綱吉の生母ではありますが、身分が低かったにもかかわらず最後には従一位にまで昇進したことに加えて、綱吉が大の母親びいきということあって、周囲のねたみを買っていたということがありました。
このあたりにも、綱吉が後世に嫌われるようになった一因が確かにあるかもしれませんね。
馬人さんへ
黒田裕樹 > 悪い評価しかされていないって可哀相ですね…。
> 「悪い」という観念が人々の中に埋め込まれているから
> こういう悪い説が飛び出してくるんでしょうね…。
仰るとおりでして、一度「悪人」というレッテルが貼られたら、とことん悪人扱いされる、というのが常ですね。いわゆる「いじめ」にも似たようなところがあると思います。
> 授業で習った綱吉さんは少し違いましたw
> 善人のイメージしかありませんでしたよ^^
> えーっと、綱吉の「生類憐みの令」でしたっけ。
> 確かそういうものの話を聞いたとき、
> 生物を大切にする人なんだな~と感動しましたw
「綱吉=悪」とか「生類憐みの令=悪法」という先入観を持たずに学習できれば、むしろ馬人さんの印象が自然だと思います。いかに先入観が偏った見方をもたらしているか、ということが良く分かりますね。